解答
解答:4
(「ARB」+「利尿薬」+「NSAIDs」の3剤併用により、腎血流量と糸球体濾過量(GFR)が急激に低下し、急性腎障害(AKI)を引き起こしている。)
解説
1.急性腎障害(AKI)とは
急性腎障害(AKI)は、数時間から数日の間に急激に腎機能が低下する病態を指します。かつては「急性腎不全」と呼ばれていましたが、わずかな腎機能の低下でも予後に影響を及ぼすことが判明し、現在はより広い概念であるAKIとして定義されています。
主な診断基準(KDIGO基準)は、以下のいずれかを満たす場合です:
• 48時間以内に血清クレアチニン値が0.3mg/dL以上上昇
• 7日以内に血清クレアチニン値が基準値の1.5倍以上に上昇
• 6時間以上にわたって尿量が0.5mL/kg/h未満に減少
AKIは、原因によって「腎前性」「腎性」「腎後性」に分類されますが、薬剤性腎障害の多くは腎血流量の低下を主因とする腎前性です。初期症状としては、尿量の減少、むくみ(浮腫)、全身倦怠感、悪心(吐き気)などが挙げられます。特に高齢者では、脱水や感染症、低血圧などが引き金となりやすく、食欲不振やだるさといった非特異的な症状として現れやすいため、注意深い観察が必要です。
2.トリプルワーミーとは
「トリプルワーミー(Triple Whammy)」とは、①RA系阻害薬(ACE阻害薬またはARB)、②利尿薬、③非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の3剤を併用することを指します。この名称は2000年にオーストラリアで提唱されました。
それぞれの腎臓への影響(メカニズム)は以下の通りです:
• 利尿薬: 尿量を増やすことで循環血漿量を減少させ、腎血流量を低下させます。
• RA系阻害薬(ACEi/ARB): 本来、腎血流量が低下するとアンジオテンシンIIが輸出細動脈を収縮させて糸球体内圧を維持しようとしますが、この薬がその代償機構をブロックし、輸出細動脈を拡張させるため、糸球体濾過量(GFR)が低下します。
• NSAIDs: 腎血流量を維持するために必要なプロスタグランジンの合成を阻害し、輸入細動脈を収縮させます。これにより、腎臓への血流そのものが減少します。
これら3剤が揃うと、腎臓の血流調節機能(自己調節能)が完全に遮断され、劇的なGFRの低下を招きます。このリスクは服用開始後30日以内、特に最初の1〜2週間に最も高まるとされており、併用開始直後のモニタリングが極めて重要です。
3.日本国内での取り組み
日本国内では、このトリプルワーミーによるAKIを防ぐためのキャンペーンなどを行っている大学・薬剤師会があります。
2018年7月より、滋賀医科大学医学部附属病院薬剤部と地元の薬剤師会が連携し、CKD患者への3剤併用に対する疑義照会の推奨や、患者啓発活動を開始しました。具体的には、以下のような活動が展開されています:
• リスク患者の特定: eGFRが一定以下の患者や高齢者が、RA系阻害薬と利尿薬を服用している場合をハイリスクと設定し、介入を強化しています。
• 患者指導パンフレットの活用: 「腎臓へのトリプルパンチ」という分かりやすい表現を用いたパンフレットを配布し、脱水症状(体重減少、血圧低下、倦怠感)のセルフモニタリングを指導しています。
• 多職種連携: 病院薬剤師だけでなく、保険薬局薬剤師がお薬手帳を確認して併用状況を把握し、疑義照会や処方提案を行う地域ぐるみの体制を構築しています。
4.薬剤師として注意すること
薬剤師は、患者の腎機能を守るための「最後の砦」として、以下の点に留意する必要があります。
- 併用チェックの徹底: RA系阻害薬と利尿薬の配合剤(コディオ、ミコンビなど)を服用している患者は多く、そこに整形外科などでNSAIDsが追加されるケースが散見されます。必ずお薬手帳を確認し、「隠れたトリプルワーミー」を見逃さないようにします。
- 代替薬の提案: 疼痛管理が必要な場合は、腎機能への影響が少ないアセトアミノフェンや、トラマドール、NSAIDs外用薬への変更を医師に提案します。ただし、外用薬でもロコアテープのように全身吸収率が高いものは、内服と同様のリスクがあるため注意が必要です。
- シックデイ指導: 発熱、下痢、嘔吐などで脱水のリスクがある時(シックデイ)は、一時的にこれらの薬剤の服用を休止する「シックデイルール」について事前に指導しておくことが推奨されます。
- 市販薬(OTC)への注意: 患者が自らドラッグストアなどでNSAIDsを購入する可能性があります。腎機能低下や特定の降圧薬を服用している患者には、「市販の痛み止めを買う際も必ず相談すること」を繰り返し伝えます。
- モニタリング: 併用が避けられない場合は、開始後2週間以内に、尿量減少、むくみ、急激な血圧低下、だるさなどの症状がないかを確認することが重要です。
今月のこやし
整形外科から処方されたロキソプロフェンを内科の降圧薬と併用して腎機能が一気に悪化したケースです。
利尿剤、NSAIDs、RAAS阻害薬、これら3つが重なると、腎臓の濾過機能が破綻し、さらに夏場の発汗による脱水が加わると危険が高まります。降圧薬が「配合錠」になっていると、利尿薬が含まれていることへの警戒感が薄れやすいため、NSAIDsが追加された際は、アセトアミノフェンへの変更提案などが重要となります。
今月の担当者
学術委員会 委員 栗本久美
引用文献
- Lapi F, et al. (2013)
o Concurrent use of diuretics, angiotensin converting enzyme inhibitors, and angiotensin receptor blockers with non-steroidal anti-inflammatory drugs and risk of acute kidney injury: nested case-control study.
o BMJ 2013;346:e8525 - Dreischulte T, et al. (2015)
o Combined use of nonsteroidal anti-inflammatory drugs with diuretics and/or renin-angiotensin system inhibitors in the community increases the risk of acute kidney injury.
o Kidney International, 88(2), 396-403 - bpacnz (2018)
o Avoiding the triple whammy in primary care: ACE inhibitor/ARB + diuretic + NSAID.
o bpac.org.nz - Kunitsu Y, et al. (2022)
o Time until onset of acute kidney injury by combination therapy with “Triple Whammy” drugs obtained from Japanese Adverse Drug Event Report database.
o PLOS ONE 17(2): e0263682 - 滋賀医科大学医学部附属病院 薬剤部 / 草津総合病院 薬剤部
o STOP! AKI 防ごう!腎臓へのトリプルパンチ (患者啓発用資材およびキャンペーン内容).
o STOP! AKI 公式サイト - 平田 純生, 門脇 大介, 成田 勇 樹 (2016)
o NSAIDsによる腎障害 ―COX-2阻害薬およびアセトアミノフェンは腎障害を起こすか―.
o 日本腎臓学会誌 2016;58(7):1059-1063 - PrescQIPP (2020)
o Acute Kidney Injury (AKI) – Sick Day Guidance.
o PrescQIPP Bulletin 260 - m3.com 薬剤師コラム (2025)
o RASI+利尿薬+NSAIDs「トリプルワーミー」が引き起こす急性腎障害リスク.
o m3.com 薬剤師コラム
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakkyoku/advpub/0/advpub_cr.2025-0027/_pdf/-char/ja


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