ホルモン補充療法中の患者

解答

1,2,3

 

解説

(1) 正しい。
 女性ホルモン製剤を使用する時、血栓症への注意が必要である。経皮エストロゲン(E2)製剤(エストラーナテープ)には血栓性静脈炎や肺塞栓症、動脈性の血栓塞栓疾患(冠動脈性心疾患、脳卒中など)の患者または既往者に禁忌、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA、商品名ヒスロン錠)には脳梗塞、心筋梗塞、血栓症静脈炎などの血栓性疾患またはその既往患者に禁忌が設定されている。4
 実は、ホルモン補充療法(HRT)ガイドライン2025では、エストロゲンは脂質代謝に良い影響があることが示唆されている。経口結合型エストロゲン(CEE、製品名プレマリン錠)はLDL-Cを低下させる(PEPI trial)がTGを上昇させ、血管炎症マーカーを上昇させ、プラークを不安定化させるが、経皮E2はプラークを安定化させる。いずれにせよ、薬局では患者の脂質代謝異常について確認し、血栓症リスクについて確認し、必要に応じて正しく情報提供できるとよいだろう。4
 頭痛については、HRTに使用する薬の類似薬である、経口避妊薬(OC)には「前兆を伴う片頭痛の患者には脳卒中などの脳血管障害が発生しやすくなるとの報告があり、禁忌」となっている。1一方でHRTにおいては片頭痛を増悪させる可能性があるが必ずしも禁忌ではない。
 ガイドラインではHRT後に頭痛発作が増悪する場合は中止すべきとしており、頭痛に関しても情報収集が必要である。

(2) 正しい。
 OCでは、35歳以上で1日15本以上の喫煙者は心筋梗塞等の心血管系の障害が発生しやすくなることから禁忌とされているが、HRT使用薬にはその設定がない。
 ガイドラインでは「喫煙者にHRTは可能か?」(CQ201)に対して、「禁煙を含む生活習慣の適正化の下で可能」としている。エストロゲン製剤を内服した患者では、喫煙により代謝酵素が誘導され、エストロゲンレベルが低下する可能性があることから、喫煙者に対するHRTは肝代謝を受けない、経皮製剤の投与が望ましい。当症例では経皮エストロゲン製剤が使用されているが、生活習慣の適正化に寄与する助言は必要である。また、喫煙は静脈血栓塞栓症(VTE)のリスク因子であり、リスク軽減のためにも禁煙を勧めたい。4

(3) 正しい
 ある特定のがんの既往がある場合にHRTが禁忌となる場合があり、検診歴・既往歴を確認することが必須となる。また、安全に治療を行うために検診の必要性への理解を確認したい。
HRTの禁忌症例として、現在の乳がんとその既往、現在の子宮内膜がん、低位軽度子宮内膜間質肉腫がある。また、慎重投与あるいは条件付き投与可能として子宮内膜がんの既往、卵巣がんの既往がある。4

●乳がん
 乳がんリスクに及ぼすHRTの影響は、小さいといえる。それは使用する薬剤・施行期間・レジメン・過去のホルモン暴露歴・個人の特性などの各種要因によって異なると考えられているものの、施行時には定期的な乳がん検診を行うことが必須とされている。4

 薬品名・レジメン リスク
EPT(エストロゲン・プロゲステロン療法)上昇するが、飲酒・肥満・喫煙のリスクと同等(5年以上の施行で上昇)
ET(エストロゲン単独療法)減少または上昇(10年程度なら増加なし)
EPT持続的投与周期的投与よりも上昇する(天然型プロゲステロン:エフメノカプセル:を使用する場合変化なし)
ジドロゲステロン(合成黄体ホルモン)小葉がんが上昇(天然型プロゲステロンでは変化なし)

●子宮(内膜・頸部)がん
 有子宮者に対するETはリスクを増加させ、EPTでは増加させない。EPTでは施行方法により異なり、使用される製剤の種類等によっても異なる。

 薬品名・レジメン リスク
ET投与経路にかかわらず子宮内膜がんが上昇(EPTでは変化なし)
EPT全般子宮頸部腺がんが上昇(特に5年以上の施行)
EPT周期的投与持続的投与より子宮内膜がんが上昇する

●卵巣がん
 投与期間が長いほどリスクは増加する可能性があるとされ、卵巣がんの組織型によりリスクが異なるとされる。HRTレジメンとの関連は一定の見解が得られていない。4

(4)、(5)誤り

 性器出血に関わるトラブルは有子宮者にHRTを行った際に比較的高頻度に認められる。不正性器出血はHRTを中断してしまう要因となりうるため、適切に対応する必要がある。EPTの周期的併用投与法では消退出血はほぼ必発である。EPTの持続的併用投与法では理論上は規則的・周期的な性器出血は認めないが実臨床では投与開始から3か月以内には出血が比較的高頻度に認められる。しかし、そのほとんどは治療の継続による子宮内膜の萎縮により6か月から1年以内には消失するといわれている。
 本症例はEPTの周期的併用投与であるが、消退出血の有無により中断する必要はない。よって、設問5は誤りで、この場合は服薬を予定通り続けるように指導すればよい。
性器出血が起こった場合の対応としては、投与開始直後であれば出血の程度や持続期間を確認し、出血の程度が次第に減少するか否か、慎重に経過観察を行う。出血が減少ないし持続する場合には基質的疾患の可能性もあるため医師へ情報提供し、指示を仰ぐのがよいだろう。よって、設問4についても誤りで、出血の様子(症状の持続性、経過等)によっては医師へ情報提供をし、対応を確認すべきであろう。

今月のこやし

 今月は更年期障害をテーマに取り上げた。
 女性のライフステージにおいて、閉経後の期間は社会で活動し続ける重要な時期と重なっており、更年期医療、とりわけホルモン補充療法(HRT)へのニーズは今後も高まると考えられる。一方で、その有効性と有害事象については、世界中で繰り返し検証が行われ、知見は更新され続けてきた分野でもある。

 更年期症状は主訴が主観的で多様であり、検査値などの客観的指標が得にくいことから、対応に難しさを感じている薬剤師も少なくないであろう。しかし、最新のガイドラインに基づく知識を整理し、患者の背景や不安に丁寧に向き合うことで、薬剤師が果たせる役割は大きい。

 本記事が、更年期医療に対する理解を深め、自信をもって患者に向き合うきっかけとなり、地域において信頼される薬局・薬剤師としての実践につながれば幸いである。

参考文献

1. https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2023.pdf 婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編2023
2. https://www.jmwh.jp/pdf/hrt_guide_book.pdf ホルモン補充療法の正しい理解を深めるために 一般社団法人日本女性医学会
3. https://www.f-meno.com/about/#characteristic 富士製薬工業 エフメノカプセル
4. ホルモン補充療法ガイドライン2025

今月の担当者


佐藤ゆかり                         学術委員会  委員

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