歯の痛みがある骨粗しょう症患者

解答と解説

A:正解
BP製剤服用中の重篤な副作用としてMRONJが知られている。またMRONJのリスク因子として、歯周病や口腔衛生不良などの感染が知られている。そのため、日常の口腔ケアや定期的な歯科受診を行うことが予防のために極めて重要である(1)。また服薬アドヒアランスや口腔内環境の維持を医科、歯科、薬局が連携して把握することが、治療効果の向上、重篤な副作用の発症抑制に極めて重要である(2)。令和6年度診療報酬改定において歯科領域で診療情報連携共有料1が新設、薬局では服薬情報等提供料1の対象に歯科医師が含まれるなど、診療報酬面でも医歯薬連携が重要視されている。

 B:誤り
BPやデノスマブでは、服薬アドヒアランスが80%以上であってはじめて骨折予防効果が得られるとされている(3)。服薬アドヒアランスは可能な限り高く維持することが望ましい。

C:正解
BP製剤服用中の重篤な副作用としてMRONJが知られている。またMRONJのリスク因子として、歯周病や口腔衛生不良などの感染が知られている(1)。そのため、日常の口腔ケアや定期的な歯科受診を行うことが予防に非常に重要である。この点は繰り返し指導し、理解してもらうことが必要である。

D:誤り
骨吸収抑制薬関連顎骨壊死ポジションペーパー2023では、抜歯時の休薬について「原則として休薬は行わず、速やかに抜歯を実施する」ことが推奨されている(1)。「現在は抜歯時の休薬を原則として行わないことが基本的な対応となっている。

A:正解
岐阜県では骨粗鬆症医歯薬連携協議会を設立し、連携を強化することに努めている(2)。まだまだ認知度が低い状況ではあるが、骨粗鬆症治療には医科、歯科、薬局が連携して治療に当たることが不可欠である。依頼による連携開始とその後の継続した連携をお願いしたい。特にアドヒアランスと継続した歯科治療を促すことが薬剤師としては重要である。

概要解説

MRONJ(薬剤関連性顎骨壊死)の病態のまとめ(1)
1.MRONJとは?
Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw:薬剤関連性顎骨壊死
骨粗鬆症やがんの骨転移治療などで使用される骨吸収抑制薬(Anti-Resorptive Agents:ARA)の投与により、顎骨に非感染性または感染性の骨壊死が生じる病態である。

2. 主な原因薬剤

分類主な薬剤使用対象MRONJリスク
ビスホスホネート(BP)アレンドロン酸、リセドロン酸、ゾレドロン酸など骨粗鬆症・骨転移・多発性骨髄腫リスク薬剤として定義
デノスマブ(プラリア、ランマーク)皮下注製剤(6か月毎または二週間毎)骨粗鬆症・骨転移リスク薬剤として定義
ロモソズマブ(イベニティ)抗スクレロスチン抗体重症骨粗鬆症現状少ないとされている。
その他抗がん薬(VEGF阻害薬など)、グルココルチコイド、免疫抑制薬BPやデノスマブほどの報告例はない。

3.発症メカニズム
「MRONJは単一の因子ではなく、複数の要因が関与する複合的なメカニズムで発症すると考えられている:
細菌感染(最重要)
 → 歯周病や抜歯創に感染が加わることで骨壊死が誘発
骨のリモデリング阻害
 → 骨代謝が抑制され、微小損傷が修復されず骨壊死に至る
血管新生抑制
 → 骨への血流が低下し、治癒遅延・壊死促進
感染性因子の関与が最も大きいとされており、「口腔内の衛生管理および感染源の除去が、予防の鍵とされている。

5.薬剤以外のリスク因子
【局所因子】
歯周病、根尖病変、インプラント周囲炎、口腔衛生不良
侵襲的歯科治療(抜歯など)、不適合義歯、強い咬合力
【全身因子】
糖尿病、自己免疫疾患、貧血(Hb<10)、人工透析
喫煙・飲酒・肥満などの生活習慣因子
「抜歯は最大のリスク」ではなく、「感染」が最大のリスク要因である点に注意が必要

6.予防戦略
・治療開始前
歯科受診を実施(感染巣の除去、抜歯等)
口腔清掃指導と教育
・治療中
年1回以上の定期歯科受診
抜歯時は原則休薬せず迅速に処置(※例外はあるため、処方医と歯科医で相談)
口腔内トラブル出現時は早期に歯科受診を行う

骨折予防と地域連携の重要性
骨粗鬆症は、進行しても自覚症状が乏しく、適切な治療継続と副作用管理が極めて重要です。
とくに大腿骨近位部骨折や脊椎骨折(骨粗鬆症に伴うこれらの大きな骨折には「骨卒中」という造語が作られています。)は、要介護状態や「生命予後にも影響する重大な転機となり得ます(4)。その一方で、国内における骨粗鬆症の治療継続率や服薬アドヒアランスは依然として低調です(3)

岐阜県では2023年に医師・歯科医師・薬剤師が連携して、骨粗鬆症治療に取り組み、重篤な副作用の予防を行うことを大きな柱として、医師会、歯科医師会、薬剤師会が協働して、骨粗鬆症医歯薬連携協議会を設立し、「骨粗鬆症医歯薬連携協同ステイトメント2023」を発出しました。こちらの内容は岐阜県薬剤師会ホームページ/会員ページ連携事業内岐阜県臨床整形外科医会ホームページ等でご確認いただけますので、ぜひ一度ご覧ください。


このステイトメントは、「骨折の一次・二次予防」および「薬剤関連性顎骨壊死(MRONJ)の予防」を両輪としています。その中で、薬剤師は服薬指導を通して、特にアドヒアランスの向上と歯科受診率の向上に取り組むとしています。日々の業務の中でBP製剤やデノスマブ製剤を使用されている患者さんがおられましたら、お薬手帳等にて医歯薬連携の有無を確認し、医歯薬連携がない場合には、歯科受診の必要性を説明し、受診勧奨を行ってください。併せて、患者の同意を得て薬剤の処方医に服薬情報等提供書(トレーシングレポート)にて情報提供を行うとともに、お薬手帳に情報提供した旨を記載するようにしてください。また、医歯薬連携が開始されている患者さんでも、1年以上歯科を受診していないことが判明した場合は、歯科受診の必要性を説明し、歯科への受診勧奨を行ってください。併せて、患者の同意を得て歯科かかりつけ医に服薬情報等提供書(トレーシングレポート)にて情報提供を行うとともに、お薬手帳に情報提供した旨を記載してください。

参考文献

1.顎骨壊死検討委員会:ポジションペーパー2023
2.岐阜県骨粗鬆症医歯薬連携協同ステイトメント2023
3.Nakatoh S et al. J Bone Miner Metab. 39:501-509, 2021
4.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版

今月のこやし

骨粗鬆症治療は医歯薬連携が治療継続と副作用予防に重要です。また連携の軸は薬局が担っています。治療を受けている患者さんが来局された際には、①継続した歯科受診がされているか、医歯薬連携がなされているかを確認すること。②服薬アドヒアランスがきちんと80%以上で保たれているかを確認して、良い服薬指導につなげましょう。

くすしのこやし 今月の担当者                

学術委員会 委員   小林亮

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