解答
3,4
解説
デベルザ(トホグリフロジン)作用機序₁₎
1) 作用部位:腎[近位尿細管S1分節の管腔側に存在するナトリウム・グルコース共輸送体2 (sodium glucose co-transporter 2;SGLT2)]
作用機序:トホグリフロジンはSGLT2(腎糸球体で濾過されるグルコースの再吸収を担う主なトランスポーター)を選択的に阻害し、過剰なグルコースの尿中排泄を促進することにより血糖依存的に血糖を低下させ、血糖コントロールを改善させる。
2) 尿細管におけるグルコース再吸収(トホグリフロジン非投与時)
原尿に含まれる大部分(約90%)のグルコースは、近位尿細管S1分節の管腔側に発現していSGLT2 により再吸収され、残りのグルコースは遠位側のS2/S3分節に発現しているSGLT1で再吸収される。 通常、食後に血糖が上昇してもグルコースは、主に SGLT2 の作用により尿中に排泄されない。

〈高血糖時〉 2型糖尿病など高血糖状態では、SGLT2及びSGLT1による再吸収の閾値を超えるグルコースは尿中へ排泄される。

3)尿細管におけるグルコース再吸収(トホグリフロジン投与時)
トホグリフロジンがSGLT2を選択的に阻害することにより近位尿細管S1分節でのグルコース再吸収を抑制し、原尿のグルコースは近位尿細管 S2/S3 分節まで運ばれ、一定量のグルコースは SGLT1により再吸収される。
〈高血糖時〉 トホグリフロジンの選択的SGLT2 阻害作用により近位尿細管S1分節でのグルコースの再吸収が抑制されるため、過剰なグルコースが尿中に排泄され、血糖が低下する。

〈高血糖でない時〉 高血糖でない時は高血糖時と比較して原尿中グルコースも少ないため、トホグリフロジンが SGLT2を阻害しても、尿糖排泄は相対的に少なくなる。また、SGLT1のグルコース再吸収を阻害しないため、過度の血糖低下を生じにくいと考えられる。

糖尿病と尿糖
糖尿病は、血糖値が高い状態を指します。これは、体がインスリンを正しく使えないか、インスリンを十分に作れない場合に発生します。糖尿病には2つの主要なタイプがあります。
1型糖尿病:主に免疫反応によりインスリンが作られなくなります。
2型糖尿病:体がインスリンを正しく使えなくなります。
尿糖は、尿に糖が含まれる状態を指します。これは、血糖値が高くなり、腎臓が血液から余分な糖を取り除くために尿に含まれることがあります。尿糖は糖尿病の初期の兆候の一つとされています。
糖尿病と尿路感染症
糖尿病患者で尿路感染症の頻度が増加する理由として、
① 尿路上皮への細菌の接着増加
② 好中球の走化性、貪食能、殺菌能の低下
③ 神経因性膀胱による尿閉や残尿の増加
④ 尿糖
などが挙げられています
尿路感染症の症状と予防₂₎
SGLT2阻害薬患者指導箋(JSNP版) | 一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会を参照
【服薬指導のポイント】
✓こまめな水分補給をおこないましょう。
(一日8回 起床時、毎食後、10時、15時、入浴前、就寝前のこまめな水分補給をお勧めします。)
✓ 陰部を清潔に保ってください。
✓ 通気性の良い下着を着ましょう。(綿の下着がおすすめ。)
✓ 下着は常に清潔にしましょう。
✓ おむつはなるべく頻繁に交換しましょう。
✓ トイレを我慢しないようにしましょう。(尿を膀胱にためると、細菌が増殖しやすくなります。)
✓ トイレの後は前から後ろにふきましょう。(肛門からの細菌感染を防ぎます。)
✓ 毎日お風呂に入りましょう。(しっかり体を乾かし、清潔に保つことが感染を防ぎます。
今月のこやし
この患者さんは、かかりつけ医に疑義照会をし、血液検査の結果を確認した上で、デベルザ錠20mgからメトホルミン錠500mgへ変更となり、その後は抗生物質の処方がなくなりました。また、大学病院 泌尿器科の定期受診の際に、医師から「薬を変えてもらえてよかったね」と言われたそうです。
SGLT2阻害剤が発売された当初、尿糖が増えることによる尿路感染症の発症については注意喚起されていました。 しかし、糖尿病患者において尿糖が多くなるため、必ずしもSGLT2服用により尿路感染症が悪化したとは言えません。₃₎
今回は、泌尿器科も受診され、抗生剤の連用が予測されるため、できるだけ採血の結果を確認した上で、かかりつけ医に今の状況を説明し、処方変更を提案した事例であります。
泌尿器科医師も必ずしも薬による症状とは言い切れないためか処方変更の提案はされていなかったようですが、むやみに薬を中止・変更するのではなく、定期的な検査の結果に基づいて、薬剤師からかかりつけ医に処方提案していくことが大切だと思います。
薬剤師として何か引っかかる部分があった際、そのままにすることなく様々な方向性を考えて疑義照会・処方提案をしていけると良いですね。
この記事が皆様のこやしになれば幸いです。
【参考資料】
https://medical.kowa.co.jp/asset/item/66/1-pi_167.pdf
https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06405/064050719.pdf
3)SGLT2阻害薬患者指導箋/一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会




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