学校環境衛生基準による検査

解答

設問 1  3と5

1,換気に関する検査として、二酸化炭素濃度を用いる。
2,温度・相対湿度の測定はアスマン通風計もしくは、それ同等以上の方法(熱電対や測温抵抗体・サーミスタを使用した温度計、電気抵抗湿度計や静電容量式湿度計)で検査を行うことができる。
3,その通り
4,FF式石油ファンヒーターなどは燃焼器具であり、一酸化炭素・二酸化窒素の検査対象となる。
5,その通り

設問 2  5

1, 大気中の二酸化炭素濃度は400ppm程度となっておりずれているので簡易校正を行ってから、測定を行う必要がある。
2, 検知管での測定の場合、0であることは確認できない。検知限度が説明書に載っているのでそれ未満(今回の場合は0.5ppm未満)と記載するのが正しい。
3, 学校環境衛生基準では二酸化炭素濃度は1500ppm以下であることが望ましいとされているので、換気するよう助言する。
また、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染予防の観点でも、1000ppm以下にするように換気をすることを推奨する。(ビル管理法での二酸化炭素濃度は1000ppm以下)
換気の必要性については、「学校における新型コロナウイルス感染症 に関する衛生管理マニュアル」(https://www.mext.go.jp/content/20230427-mxt_kouhou01-000004520_1.pdf )の3ページの換気の確保を参考にされるとよい。
4, 学校環境衛生基準では一酸化炭素濃度は0.06ppm以下であることが望ましいとされているので、外気との比較をして、燃焼機器の整備などを含めて確認する必要がある。
5, その通り

 

解説

 学校環境衛生活動の法的根拠として、 かつて、学校における環境衛生は、必ずしも良好に保たれているとは言い難い状況にあり、児童生徒等の健康への影響が懸念された。このため、昭和 33 年に学校保健法(昭和 33 年法律第 56 号)が施行され、第 2 条には、学校においては、児童、生徒、学生又は幼児及び職員の健康診断その他その保健に関する事項について計画を立て、これを実施しなければならないこと、及び第 3 条には、学校においては、換気、採光、照明及び保温を適切に行い、清潔を保つ等環境衛生の維持に努め、必要に応じてその改善を図らなければならないことが明記され、環境衛生に関する内容が盛り込まれた。

 昭和 39 年 6 月の保健体育審議会答申「学校環境衛生の基準について」において、学校における環境衛生の整備を図るため、教室内の換気・採光・照明・保温その他の衛生に関する事項の基準として「学校環境衛生の基準」が示され、行政の指導指針となった。その後、平成 4 年 6 月に、新たに明らかとなった科学的な知見等を踏まえて内容を全面改訂した「学校環境衛生の基準」(平成 4年文部省体育局長裁定)が策定され、新たなガイドラインとなった。

 今回の設問は、学校環境衛生基準の「第1 教室等の環境に係る学校環境衛生基準」の「換気及び保湿等」に関わる内容で基準は以下の通りである。(令和3年4月1日にキシレンが、令和4年4月1日に温度と一酸化炭素の数値に改定があった)

検査項目基 準検査回数
(1) 換気換気の基準として、二酸化炭素は、1500ppm以下であることが望ましい。年2回
 (2) 温度18℃以上、28℃以下であることが望ましい。年2回
 (3) 相対湿度30%以上、80%以下であることが望ましい。年2回
(4) 浮遊粉じん0.10 mg/m3 以下であること。年2回 ※
(5) 気流0.5 m/ 秒以下であることが望ましい。年2回
(6) 一酸化炭素6 ppm 以下であること。年2回 ※
(7) 二酸化窒素0.06 ppm 以下であることが望ましい。年2回 ※
(8) 揮発性有機化合物  
 ア、ホルムアルデヒド100μg/m3 以下であること。                           年1回 ※
イ、トルエン260μg/m3 以下であること。年1回 ※
ウ、キシレン200μg/m3 以下であること。年1回 ※
エ、パラジクロロベンゼン240μg/m3 以下であること。年1回 ※
オ、エチルベンゼン3800μg/m3 以下であること。年1回 ※
カ、スチレン220μg/m3 以下であること。年1回 ※
(9) ダニ又はダニアレルゲン100 匹 /m2 以下又はこれと同等のアレルゲン量以下であること。年1回

※:検査省略規定あり

各項目の検査方法等の解説は以下の通りとなる。

(1) 換気


① 検査回数
 毎学年 2 回定期に行うが、どの時期が適切かは地域の特性を考慮した上、学校で計画立案し、実施する。

② 検査方法
 二酸化炭素濃度測定は、授業開始前から授業終了時まで経時的に行うことが望ましいが、測定回数を 1 回とする場合は、二酸化炭素濃度が高くなる授業終了直前に行うこと。
 二酸化炭素は、検知管法又はこれと同等以上の方法により測定する。
<同等以上の方法の例>
 非分散型赤外線ガス分析計(NDIR)を用いて測定する場合、定期的に較正ガスを用い精度管理を実施するほか、センサーや電池の寿命を考慮し、定期的にメーカーの点検を受けること。

(主な測定機器:測定原理 NDIR)

(RT-50A1:リオンテック) 

(RT-55:リオンテック)

 (TG-01:光明理化)

(2)温度


① 検査回数
 毎学年 2 回定期に行うが、どの時期が適切かは地域の特性を考慮した上、学校で計画立案し、実施する。

② 検査方法
温度計には、アスマン通風乾湿計、熱電対、測温抵抗体(RTD)、赤外線、サーミスタを利用した温度計等があるが、0.5 度目盛の温度計又はこれと同等以上の性能を有する測定器を用いて測定する

(主な測定機器)

 (アスマン通風乾湿計)

(RT-50A1:リオンテック)

(TG-01:光明理化)

(3) 相対湿度


① 検査回数
 毎学年 2 回定期に行うが、どの時期が適切かは地域の特性を考慮した上、学校で計画立案し、実施する。

② 検査方法
 乾湿球湿度計には、アスマン通風乾湿計、電気抵抗湿度計、静電容量式湿度計、オーガスト乾湿計等があるが、0.5 度目盛の乾湿球湿度計又はこれと同等以上の性能を有する測定器を用いて測定する。

(主な測定機器)

 (アスマン通風乾湿計)

(RT-50A1:リオンテック)

(TG-01:光明理化)

(4) 浮遊粉じん


① 検査回数
 毎学年 2 回定期に行うが、どの時期が適切かは地域の特性を考慮した上、学校で計画立案し、実施する。
 (省略規定)
 空気の温度、湿度又は流量を調節する設備を使用している教室等以外の教室等においては、必要と認める場合に検査を行う。また、検査の結果が著しく基準値を下回る場合には、以後教室等の環境に変化が認められない限り、次回からの検査を省略することができる。なお、著しく基準値を下回る場合とは、基準値の 1/2 以下とする。

② 検査方法
 浮遊粉じんについては、質量による方法(Low−Volume Air Sampler 法)又は相対濃度計を用いて測定する。
 浮遊粉じんの測定には、機器の安定時間として 2 ~ 3 分を要し、その後、少なくとも 5 分間値の1 分平均値を測定値とする。また、可能であれば 1 日の授業時間中に連続測定して、その結果を平均値で表すのがよい。

(主な検査機器)

(LD-3S:柴田化学)  

 (LD-5R:柴田化学)     

(Model 3432:カノマックス)

(5) 気流


① 検査回数
 毎学年 2 回定期に行うが、どの時期が適切かは地域の特性を考慮した上、学校で計画立案し、実施する。

② 測定方法
 0.2 m/ 秒以上の気流を測定することができる風速計を用いて測定する。
 風速計には、カタ温度計や微風速計がある。
 微風速計に指向性(特定方向の風速に感知)がある場合には、測定時にセンサー部を風上に向けて数値を読み取り、複数回測定した平均値で気流速度を求めるようにする。微風速計を使用する場合は、電源の電圧低下に留意すること。

(主な測定機器)

 (カタ温度計) 

(微風測計 RT-11/11A:リオンテック)

(6) 一酸化炭素


① 検査回数
 毎学年 2 回定期に行うが、どの時期が適切かは地域の特性を考慮した上、学校で計画立案し、実施する。 毎学年 2 回の定期検査の対象となる教室等とは、具体的には、長期間、燃焼器具により暖房する教室等や給湯器等が置かれた職員室等である。また、教科等において燃焼器具を使用している教室等は、燃焼器具を使用しているときに適宜測定する。
 (省略規定)
 教室等において燃焼器具を使用していない場合に限り、検査を省略することができる。

② 測定方法
 一酸化炭素は、検知管を用いて測定する。
 検知管の使用に当たっては、測定濃度に応じた検知管を用いること。

(主な検査機器)

 ・ガステック(検知管名・型式:一酸化炭素 1LC)

光明理科 北川式検知管 (検知管名・型式:一酸化炭素 106S)

(7) 二酸化窒素


① 検査回数
 毎学年 2 回定期に行うが、どの時期が適切かは地域の特性を考慮した上、学校で計画立案し、実施する。 毎学年 2 回の定期検査の対象となる教室等とは、具体的には、長期間、燃焼器具により暖房する教室等や給湯器等が置かれた職員室等である。また、教科等において燃焼器具を使用している教室等は、燃焼器具を使用しているときに適宜測定する。
 (省略規定)
 教室等において燃焼器具を使用していない場合に限り、検査を省略することができる。

② 測定方法
 ザルツマン法を用いて測定する。
 すなわち、試料空気中の二酸化窒素をザルツマン試薬により発色させ、吸光光度法で測定する。大気環境測定等の標準法となっている。ザルツマン法を用いた自動計測器は、日本工業規格(JIS)の認証が行われている。

(主な検査機器)

光明理科 北川式検知管 (検知管名・型式:一酸化炭素 106S)

(GSP-500FT:ガステック)使用検知管型式:9P 

 (ASP-1200:光明理化) 使用検知管型式:740

(8) 揮発性有機物


①検査回数
 毎学年 1 回、教室等内の温度が高い時期に定期に行うが、どの時期が適切かは地域の特性を考慮した上、学校で計画立案し、実施する。
(省略規定)
 ホルムアルデヒドにあっては、高速液体クロマトグラフ法(HPLC)により測定した場合(つまりパッシブ法で測定)に限り、その結果が著しく基準値を下回る場合には、以後教室等の環境に変化が認められない限り、次回からの検査を省略することができる。
 トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレンにあってはガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)法により測定し(すなわちパッシブ法)、その結果が著しく基準値を下回る場合には、以後教室等の環境に変化が認められない限り、次回からの検査を省略することができる。

②測定方法
【検査時の事前措置】
 教室の濃度を外気濃度と同じ程度にするため、教室等の窓、戸、戸棚等を開けて 30 分以上換気する。その後、開放したところを閉め、そのまま 5 時間以上放置する。
【検体の採取法】
 空気の採取は、授業を行う時間帯(揮発性有機化合物濃度の日変動が最大となると予想される午後 2 時~ 3 時頃が望ましい)に机上の高さで行う。採取は、原則として、児童生徒等がいない教室等において窓等を閉めた状態で行う。

○ 吸引方式(アクティブ法)
 精密ポンプを用いて、捕集管に試料の空気を一定量採取する方法。なお、捕集管は、対象とする揮発性有機化合物の種類により異なる。
 空気試料の採取時間は 30 分間、2 回採取し、平均値を測定値とする。

○ 拡散方式(パッシブ法)
 揮発性有機化合物の空気中の拡散作用を利用して、細いチューブに充填した捕集剤に、ポンプなしで受動的に採取する方法。なお、捕集剤は、対象とする揮発性有機化合物により異なる。
 空気試料の採取時間は始業から終業を目安に 8 時間以上、1 回採取する。

(主な検査機器:アクティブ法)

(FP-31/31B:リオンテック)

(GSP-500FT:ガステック)使用検知管型式:91P(ホルムアルデヒド)使用検知管型式:122P(トルエン) 

 (ASP-1200:光明理化)使用検知管型式:710(ホルムアルデヒド)使用検知管型式:721、724(トルエン)

(9) ダニ又はダニアレルゲン


①検査回数
 毎学年 1 回、教室等内の温度が高い時期に定期に行うが、どの時期が適切かは地域の特性を考慮した上、学校で計画立案し、実施する。

②検査方法
【検体の採取法】
 ダニの採取方法は、内部に細塵捕集用フィルターを装着した電気掃除機で、1 m2 の範囲を 1 分間吸引し、室内塵を捕集する。
【分析測定】
 捕集した室内塵を飽和食塩水や溶剤を用いてダニを分離後、ダニ数を顕微鏡で計数するか、又はアレルゲンを抽出し、酵素免疫測定法(ELISA 法)によりアレルゲン量を測定する。

参考:学校環境衛生マニュアル「学校環境衛生基準」の理論と実践[平成30年度訂正版]
リオンテック株式会社 
株式会社ガステック 
光明理化学工業株式会社 
柴田化学株式会社 
日本カノマックス株式会社 

今月のこやし

学校薬剤師業務は、環境に関わる業務が多く、児童・生徒・教職員の生活環境を管理することが主な仕事となっています。通常の薬剤師の仕事は異なり、物(くすりなど)ではなく、環境を機器を使用して数値化して判断、指導助言することが主な仕事となります。そのほか、薬物乱用防止出前講座など薬物に関することもありますが、一度環境というものに目を向けてはどうでしょうか。
 いろいろな法律などもあり、よりよい環境を作るために調べてみてもよいのではないでしょうか。

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