血清カリウム値が低下している患者に処方された利尿剤

解答

問1  2・3・4・5

問2  2・3

 

解説1

1. エナラプリル
アルドステロン分泌を抑制し、血清カリウム値を上昇させる可能性がある。1)  ×
2. フロセミド
ヘンレ係蹄、遠位尿細管起始部においてナトリウムイオンの再吸収が阻止されるので、遠位尿細管内のナトリウムイオン濃度が高くなる。その結果、遠位尿細管でのナトリウムイオンとカリウムイオンの交換が活発になり、カリウムイオン排泄量が増加する。さらに、フロセミド投与による循環血漿量の減少がアルドステロンの分泌を亢進するためカリウムイオン排泄量が増加し、低カリウム血症を起こす。2)  ○
3. トリクロルメチアジド
遠位尿細管曲部の管腔側に局在する Na+-Cl-共輸送体を阻害することによりナトリウムイオン・クロライドイオンの再吸収を抑制する利尿作用により尿中へのカリウムイオンの排泄が起き、低カリウム血症を起こす。3)  ○
4. 抑肝散
甘草に含まれるグリチルリチン酸がコルチゾールを増加させ、ミネラルコルチコイド作用を発揮する。この作用により、管腔側の上皮ナトリウムチャネルの活性化、ナトリウムと水分子の再吸収、カリウムの排泄が促進される。上皮細胞内のナトリウムが過剰となり、カリウムが不足するため、血管側のNa-K ATPaseの作用によりナトリウムが血管へ、カリウムが血管から上皮細胞内へそれぞれ移動する。この一連の作用により、カリウム排泄が起こり、低カリウム血症を引き起こす。4)  ○
5. センノシド
長期連用に伴い腸運動が亢進した結果、下痢が起こり、カリウムが欠乏する。また、下痢による水分とナトリウムの喪失がアルドステロンの分泌を亢進し、カリウム欠乏をもたらす。5)  ○
6. トラゾドン
インタビューフォームにて低カリウム血症の副作用なし。6)  ×

血清カリウムの変動をきたす薬剤として、ループ利尿剤・サイアザイド利尿剤・甘草含有漢方薬・副腎皮質ステロイド・インスリン製剤・テオフィリン・アミノグリコシド系抗菌剤・白金製剤・アムホテリシン・炭酸水素 ナトリウム・アビラテロン・センノシド・抗 EGFR 抗体などが知られている。7)
また、少し古いデータにはなるが、平成28年度には、重篤な低カリウム血症を引き起こした成分として、アビラテロン酢酸エステル(ザイティガⓇ)・ホスカルネットナトリウム水和物(ホスカビルⓇ)などが報告されている。7)
低K血症は自覚症状として、四肢の脱力・筋肉痛・動悸などが起こる。他覚症状として、不整脈・心電図異常・起立性低血圧が見られ、偽アルドステロン症では血圧上昇が起こることもある。7)
低カリウム血症の治療開始の目安として、有害事象共通用語規準 v5.0日本語訳JCOG版(CTCAE v5.0 – JCOG)では、以下のように分類されている。8)
グレード1:血清カリウム値3.5-3.0 mEq/Lで症状がない
グレード2:血清カリウム値3.5-3.0 mEq/Lで症状がある:治療を要する
グレード3:血清カリウム値3.0-2.5 mEq/L:入院を要する
グレード4:血清カリウム値<2.5 mEq/L:生命を脅かす
グレード5:死亡
Aさんは心不全の治療中である。心不全により腎血流が低下すると、それに応答してレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が賦活化される。アルドステロンはナトリウムの再吸収とカリウムの排泄を促進するため低カリウム血症が惹起される。9)また、低カリウム血症の副作用は低身長、低体重など体表面積が小さい者や高齢者、原因薬剤を併用している患者に生じやすいとされる。7)よって、Aさんは低カリウム血症のリスクが高いと判断できる。この症例では、血清カリウム3.2mEq/Lであり、脱力感という自覚症状がある。食事でのカリウム摂取が勧められるが、お惣菜中心の食生活・食欲低下もあるため、疑義照会にてカリウム製剤が追加となった。
低カリウム血症の副作用は原因医薬品を服用後、10 日以内の早期に発症したものから、数年以上の使用の後で発症することもあり、一定の傾向は認められない。7)検査値をモニタリングすることで副作用にいち早く気づき、悪化する前に対処することが重要と考える。

解説2

1.疑義照会のうえ、粉砕して調剤し交付した。
当該製品はフィルムコーティング製剤であるため、粉砕は推奨されていない。(メーカー問い合わせ)  ×
2.疑義照会のうえ、グルコンサンカリウム細粒4meq/g 3.75g毎食後(計15mEq)に変更した。
細粒にすることで服薬しやすくなり、同成分で同量のため妥当。  ○
3.疑義照会のうえ、L-アスパラギン酸カリウム錠300㎎ 4錠朝夕食後(7.2mEq)に変更した。
  グルコンサンカリウム錠は直径19.2㎜、長さ7.8㎜である。10)L-アスパラギン酸カリウム錠は直径11.0㎜、厚さ5.1㎜であり、錠剤は小さくなる。11)また、グルコンサンカリウムからL-アスパラギン酸カリウムへの換算はmEq数を4割ほどにすると良い。※詳細は後述  ○
4.疑義照会のうえ、塩化カリウム徐放錠600㎎ 4錠朝夕食後(計32mEq)に変更した。
塩化カリウム徐放錠は直径11.0㎜、長さ6.4㎜であり、錠剤は小さくなる。12)しかし、グルコンサンカリウム15mEqから塩化カリウムへの換算は16mEq(600㎎2錠)が妥当と思われる。また、グルコンサンカリウム・L-アスパラギン酸カリウムとは使用に適した身体状態が異なる為、L-アスパラギン酸カリウムへの変更の方が、妥当性が高いと思われる。※詳細は後述  ×

グルコンサンKの錠剤は大きく、高齢者であるAさんには服用しにくいようだ。



経口カリウム製剤の内服製剤には、グルコンサンカリウム・L-アスパラギン酸カリウム・塩化カリウムの3成分がある。
上記3薬剤の量を換算する際には、単純に同mEqで換算すればよいというものではない。
各薬剤の常用量が異なっていることを知っておく必要がある。
グルコンサンカリウム:30mEq~40mEq10)
L-アスパラギン酸カリウム:5.4mEq~18mEq11)
塩化カリウム:32mEq12)
このため、グルコンサンカリウム:L-アスパラギン酸カリウム:塩化カリウムのmEq換算は、10:4:8で行うのが妥当である。しかし、この換算はあくまで常用量対比であり、正式な換算式ではなく、臨床でのデータが裏付けるものではない。変更後1~2週間で血清カリウム値のモニタリングを行うことが望ましいとされている。13)
常用量が異なる理由としては、各薬剤の生体内利用率や組織移行性の違いが挙げられる。
動物のデータではあるが、L-アスパラギン酸カリウムをカリウムとして1mEq/kg/hrを2時間静脈内持続投与において,3時間後の体内保有率は約70%であり,塩化カリウム(約30%)より良好であるというデータも示されている。14)

また、カリウム製剤の使い分けとして、細胞外の重炭酸イオン(HCO3–)が過剰になったアルカローシスの時はHCO3–に変換されない無機カリウム(塩化カリウム)、細胞外の重炭酸イオン(HCO3–)が少なくなっているアシドーシスではHCO3–に変換される有機カリウム(グルコン酸カリウム、L-アスパラギン酸カリウム)が理論上は適切と考えられる。15)
そのため、今回の疑義照会においても類似薬のL-アスパラギン酸カリウムを提案する方が、妥当性が高いと考えられる。
代謝性アルカローシスはインスリンやテオフィリン製剤使用時に細胞内へのカリウムの移動が起きた時、利尿剤、甘草によって腎臓からカリウムが尿に喪失される時、嘔吐や胃液吸引などで引き起こされる。15)
代謝性アシドーシスは下痢により消化管からカリウムが消失した場合に生じる。15)

なお、2024年5月には、高カリウム血症になる可能性があるとして、経口カリウム製剤の禁忌薬としてエサキセレノン錠(ミネブロⓇ)が追加になったため、新規処方時は併用薬に注意が必要である。16)

参考文献

1)レニベースⓇ錠インタビューフォーム
2)ラシックスⓇ錠インタビューフォーム
3)フルイトランⓇ錠インタビューフォーム
4)偽アルドステロン症 | ツムラ医療関係者向けサイト | 株式会社ツムラ (tsumura.co.jp)
5)プルゼニドⓇ錠インタビューフォーム
6)デジレルⓇ錠インタビューフォーム
7)重篤副作用疾患別対応マニュアル 低カリウム血症 平成30年6月 厚生労働省 tp1122-1e49.pdf (mhlw.go.jp)
8)有害事象共通用語規準 v5.0日本語訳JCOG版(CTCAE v5.0 – JCOG)CTCAEv5J_20220901_v25_1.pdf (jcog.jp)
9)薬がみえるvol.1 第1版
10)グルコンサンK錠Ⓡ添付文書
11)アスパラカリウム錠Ⓡ添付文書
12)塩化カリウム徐放錠600㎎「St」添付文書
13)【アスパラカリウム錠300mg】他のカリ…│Q&A|製剤情報│医療関係者のみなさま│ニプロESファーマ【リライアブルジェネリック】 (nipro-es-pharma.co.jp)
14)アスパラカリウム錠Ⓡインタビューフォーム
15)一般社団法人 日本腎臓学会 2008年50巻 カリウム代謝の考え方084-090.pdf (jsn.or.jp)
16)ミネブロ錠Ⓡ添付文書

今月のこやし

処方箋検査値掲載や、マイナンバーカードの運用により、検査値の情報を得る機会が増えてきました。
血清カリウムは食事や腎機能によっても変動が起きやすく、低カリウム血症や高カリウム血症が増悪すると致死的になります。
血清カリウムの変動に関わる薬剤とそれに対応する薬剤の特徴を押さえ、検査値をフォローしていけば患者様の安心な薬物治療に寄与できると考えます。
この記事が皆様のこやしになれば幸いです。

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