解答
① ✕ ②✕ ③〇 ④✕ ⑤✕
解説
腎機能の評価 (日本腎臓学会 診療ガイドラインより参照)
腎機能は GFR を用いて評価する。日常診療では血清Cr値,性別,年齢から日本人の GFR 推算式(eGFRcr)を用いて算出する。必要に応じて血清シスタチン C 値に基づく日本人の GFR 推算式(eGFRcys)を用いる。より精度の高い腎機能の評価が必要な場合は,イヌリンクリアランスによる実測 GFR(mGFR)を用いる。
eGFRcr :男性 194×血清 Cr(mg/dL)-1.094×年齢(歳)-0.287 (mL/分/1.73 m2)
:女性 194×血清 Cr(mg/dL)-1.094×年齢(歳)-0.287×0.739(mL/分/1.73 m2)
注:酵素法で測定された Cr 値(小数点以下 2 桁表記)を用いる
要因:年齢、性別、血清Cr値で構成…①
腎機能の影響以外でCr値が変化している状態(筋肉量低下、四肢切断など)では注意が必要である
Cr は筋肉から産生され血清Cr値は筋肉量の影響を受けるため,サルコペニア(長期臥床など),筋疾患,四肢欠損で筋肉量の減少している症例ではeGFRcr が高く推算される…②
逆にアスリート,運動習慣のある高齢者などの症例では筋肉量が多いため,eGFRcr が低く推算される。また,血清 Cr 値は食事内容,運動,尿細管分泌によっても影響を受ける。
eCCrについて
Cockcroft & Gaultの式
:男性:(140 – 年齢) × 体重 / (72 × 血清Cr値)
:女性:0.85 × (140 – 年齢) × 体重 / (72 × 血清Cr値)
要因:年齢、性別、体重、血清Cr値で構成
→肥満患者ではeCCrは高めに推算される…③
GFRとCCr
Crは糸球体濾過以外にも一部は尿細管分泌により排泄されることから
CCr=真のGFR+尿細管分泌クリアランスとなり原則、GFR<CCrとなる…④
CCrは若年者ではGFRより30%程高めに推算される。
そのため、若年者ではCG式によるeCCr×0.789で個別化eGFRに換算される。
腎機能別薬剤投与量設定に用いる腎機能推算式
(エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023 第11章薬物治療参照)
患者腎機能推算式は添付文書の腎機能別薬剤投与量設定に使用されている腎機能評価法(治験時の評価法)を用いることが原則である。
図:添付文書における腎機能別薬物投与量設定(エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023より引用)
| 添付文書に記載される腎機能評価法 | ||||
| GFR | CCr | |||
| eGFR (mL/分/1.73m2) | eCCr(mL/分) (jaffe法) | eCCr (mL/分) (酵素法) | ||
| 患者腎機能 | eGFR(mL/分/1.73m2) | そのまま使用可能 | ×体表面積/1.73 | |
| eCCr(酵素法) (mL/分) | そのまま使用可能 | |||
| 薬剤例 | バリシチニブ、オマリグリプチンなど | 酵素法が普及する前の薬 ファモチジン、ガンシクロビルなど多くの薬 | 酵素法が普及した後の薬 ミロガバリン DOACなど | |
多くの添付文書では腎機能別薬剤投与量設定はCCr(mL/分)に基づいて記載されているが、そのほとんどはCockcroft-Gault式で計算されたeCCr(mL/分)である。
eGFRで記載される添付文書の多くは標準化eGFR(mL/分/1.73m2)で記載されているが、一部の薬剤として、ニルマトレルビル・リトナビルでは個別化GFR(mL/分)で記載されている。
ミロガバリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)ではeCCr(酵素法)で添付文書が記載されており,eCCr(mL/分)に基づいて薬物投与量を設定する必要がある。
薬物によっては異なるが、薬物投与設計の際には標準化された値ではなく、個別化された値を用いることが多い。処方せんに記載されている検査値は、一般的にeGFR(mL/分/1.73m²)などの標準化された値である場合が多いため、取り扱いには注意が必要である。
酵素法とヤッフェ(Jaffe)法
血清Cr値の測定方法には、ヤッフェ法と酵素法の2つがある。
日本では当初、ヤッフェ法が採用されていたが、現在ではほとんどの医療機関で酵素法が使用されている。酵素法は、ヤッフェ法に比べて約0.2mg/dLほど低い値を示すとされている。このため、測定方法によって腎機能の評価結果が異なることがある。
しかし、どちらの方法が使用されているかは、添付文書やインフォームドコンセントの文書からは判断できないため、メーカーに問い合わせて治験データを確認する必要がある。
日常業務で活用することは難しいかもしれないが、腎機能を評価する際の参考知識として記載した。
腎機能と投与量
患者背景:85歳女性 身長160cm 体重75キロ 血清Cr値1.4mg/dL
表1

表2

表1は患者背景の数値を日本腎臓病薬物療法学会の計算式に入力した結果である。
eCCrは肥満患者において高めに推算されるため、理想体重(サイトに記載あり)にて入力することも考慮して判断が必要である。この症例では理想体重が51.88kgとなり、この値で再計算すると表2のようになる。
タリージェの添付文書(表3)より
理想体重において計算したeCCrは30を下回っているため、
疑義紹介をした方がよいと考えられる…⑤
(ただし、理想体重では逆に腎機能を過小評価するとの報告もあるので、そのことを念頭において疑義s照会する必要はある)
表3

参考文献
エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023 第11章薬物治療
今月のこやし
薬物の投与設計を行う際には、患者ごとに個別化されたGFRやCCrの値を用いる必要がある。しかし、これらの値は、基本的に標準的な患者背景を持つ患者から推算されたものであり、筋肉から産生されるクレアチニン(Cr)や体重によって誤差が生じる可能性がある。
過大評価されるケースとしては、筋肉量が極端に少ない患者が挙げられる。具体的には、サルコペニア、フレイル、四肢切断患者、痩せた高齢者、長期臥床患者などである。
一方、過小評価されるケースとしては、筋肉量の多い患者が挙げられる。具体的には、ボディビルダーやアスリートなどである。
このように、筋肉量が標準から外れる患者においては、実測CCrを用いるか、シスタチンCによるeGFRで腎機能を評価することが推奨される。
体重、血清Cr値、筋肉量などの身体的要素が腎機能の数値に大きく影響することを考慮し、これらの数値を扱う際には、あくまで推算データであることを念頭に置くことが重要である。
皆様の日々の業務のこやしになれば幸いである。


※ 薬友ぎふ2024年10月号掲載の一部に記載漏れがありました。お詫びし、下記の通り訂正いたします。
誤:計算式より eGFR=34.78mL/min
正:計算式より eGFR=34.78mL/min/1.73m2



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