糖尿病と脂質異常症の食事指導

解答

設問1 正解は ②、③

設問2 正解は②
    適正なエネルギー摂取量:53.5(~60.84)(kg)×25=1337.5(~1521)kcal

設問3 正解は ②、④

 

解説1

1.糖尿病の食事指導 1)
糖尿病は何らかの原因によって血糖値のコントロールを失い、高血糖状態が継続する病気である。高血糖状態が継続することによって、糖尿病合併症(糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症・糖尿病性神経障害など)をひき起こす。糖尿病の食事療法は、血糖値のコントロールを助け高血糖状態が継続することを避けることにより、合併症を予防することを目的に行われる。

(1)1日当たりの適正なエネルギー量を知る。
1日当たりの適正なエネルギー量は、目標とする体重や身体を動かす程度などにより異なる。主治医や管理栄養士と相談して自分の適正なエネルギー量を知ることが重要である。

目標体重は・・・
目標体重(kg)= 身長(m)× 身長(m)×22(65歳以上は22~25)※
Hさんの場合、年齢が65歳なので目標BMIは22~25となり、身長156センチなので
1.56×1.56×22=53.53(kg)~1.56×1.56×25=60.84(kg)となり、
設問1の正解は②55㎏と③60㎏となる。

※理想体重(標準体重)は身長(m)× 身長(m)×22だが、高齢者の目標体重は
身長(m)× 身長(m)×22~25をかけて設定する。
年齢。フレイル、サルコペニア、ADLの低下や合併症、体組成、摂取状況などに応じて
柔軟に設定する。

1日当たりの適正なエネルギー摂取量は・・・
エネルギー摂取量(kcal)= 目標体重(kg)× 身体活動量
身体活動量の目安
・軽い労作(大部分が座位の静的活動)・・・25~30
・普通の労作(座位中心だが通勤・家事、軽い運動を含む)・・・30~35
・重い労作(力仕事、活発な運動習慣がある)・・・35~
ただし肥満者の場合には、20~25として、まず5%の減量を目指す 。
Hさんは軽い労作に該当するため、目標体重に25~30を乗じて算出する。
 53.53×25=1338.25(kcal)~60.84×30=1825.2(kcal)となる。
よって設問2の正解は②となる。

(2) 栄養バランスのよい食事をする。
糖尿病食は、栄養素別にみて総エネルギー量(カロリー)の40~60%を炭水化物から摂取し、さらに食物繊維が豊富な食物を選択する。たん白質は20%までとして、脂質は25%以下とするのが目安である。また、もし脂質が25%を超える場合には飽和脂肪酸を減じるなど脂肪酸組成に配慮が必要である。

(3) 『糖尿病食事療法のための食品交換表』(『食品交換表』)を用いる。
食品交換表とは 3)
食品を主に含まれている栄養素により6つの“表”に分類している。また、80kcalを1単位として、それぞれの食品1単位分の重さ(g)を示している。主治医や管理栄養士から指示された1日の指示単位と、各表への振り分けにしたがって食品を選択することで、簡単に理想的な栄養バランスの食事をとることができる。

(4) 食事療法の注意点
食事は規則正しく
朝・昼・晩と規則正しく食べて、間食は避ける。1日1、2回にまとめて食べたりすると、膵臓に大きな負担をかけて、糖尿病が悪化してしまう。仕事などで規則的な食事ができない場合などは、1日の総エネルギー量から決められた分を間食としてとるといった工夫をする。
よって設問3の①は不正解である。

ゆっくり噛んで腹八分目に
食事をしてから満腹感が得られるまでには、ある程度の時間がかかる。ゆっくりとよく噛んで食事をすることで、必要以上に食べることを防ぐことができる。

食品の種類は、できるだけ多くバランスよく
食品の種類はできるだけ多くとり、栄養素が偏らないようにする。

脂質と塩分は控えめに
脂質が多い食品を多くとると、脂質異常症となり動脈硬化が進行するおそれがある。特にコレステロールや飽和脂肪酸が多い食品は控えめにする。
また、食塩の量が多いと、高血圧の原因となり腎症や網膜症をはじめとした合併症が進行するおそれがある。味付けは薄くして、食塩の量を減らすようにする。

<理想的な食塩量>
1日に男性は7.5g、女性は6.5g未満。高血圧を合併している場合は6g未満。
Hさんの血圧は正常であり、設問3の②は正解である。

食物繊維を摂る
野菜、海藻、きのこなど食物繊維を多く含むものは、食物の消化吸収を遅くして、血糖値の急激な上昇をおさえる。さらに空腹感をおさえる効果もあるため、積極的にとるようにする。食物繊維は1日20g以上を目標にとるとよい。

外食をするとき
外食は、一般的に『総エネルギー量が高い』、『塩分・糖分が多い』、『野菜・ミネラルが不足しがち』となる傾向がある。エネルギー量や栄養成分について確認することが難しいため、普段の量より多ければ残すことや、丼物といった単品メニューではなく、品数が多い定食メニューを選ぶなどの工夫をするとよい。外食のエネルギー量や栄養素のバランスを見分けられるように、日頃から食品の量をはかる習慣をつけておくとよい。

2.脂質異常症の食事指導 2)
血液中の脂質の濃度が基準の範囲にない状態を脂質異常症という。動脈硬化性疾患にならないようにするためには、早期に脂質異常症を改善する必要がある。いずれの脂質も食事からの摂取だけでなく、肝臓でも作られて血液で全身に運ばれるため、摂取する栄養素の量と組み合わせを調整して対応しなければならない。
体重を適正にする   1-(1)参照

飽和脂肪酸の摂取量を減らす
肉類の脂身や鶏肉の皮、ラード、バター、乳脂肪、ココナッツミルクなどには、血中コレステロールを上げる作用のある飽和脂肪酸が多く含まれる。これらの動物性脂肪や脂身の多い肉を控え、赤身肉や脂身をとり除いた肉を食べる。牛乳も低脂肪乳にするとよい。
飽和脂肪酸の摂取量は減らさなくてはいけないので、設問3の③は不正解である。

工業的トランス脂肪酸の摂取量を減らす
工業的に作られたトランス脂肪酸は、マーガリンやショートニングなどを使った食品や工場生産された揚げ物などに含まれる。揚げ物類やスナック菓子、パイ菓子、クッキー類などをはじめとした市販の洋菓子類には注意が必要である。

コレステロール摂取量を制限する
コレステロールを多く含む食品をなるべく避けるようにする。特に卵類(鶏卵や魚卵)、内臓類(レバーやモツ)を1~2ヶ月食べないようにしてみて、血中コレステロール濃度が下がるようならば、コレステロール摂取量の制限が効果的なタイプと考えられる。ある程度コレステロール濃度が下がったら、2~3日に1回程度は食べても大丈夫である。

多価不飽和脂肪酸を摂取する
1日に大さじ1杯程度の植物油を料理に使うとよい。ただし、オリーブ油、やし油などには多価不飽和脂肪酸はほとんど含まれない。ドレッシングやマヨネーズを作るときには油を少なめにし、使いすぎに注意する。よって設問3の③は不正解である。

n-3系多価不飽和脂肪酸の確保
EPAやDHAといったn-3系多価不飽和脂肪酸は青魚類の脂肪に多く含まれる。1日に魚を1切れ程度、食べるようにするとよい。
よって設問3の④は正解である。

食物繊維を多くとる  1-(4)参照

糖質の摂取量を制限する
主食の大盛りやおかわりをやめ、菓子類を減らす。甘い果物類も糖質を多く含むので、甘くない果物を選び、1日に1個程度にしておくとよい。甘い飲み物やジュースには糖質が多く含まれているため、無糖のお茶類にかえる。

アルコールの制限
高カイロミクロン血症の場合は禁酒である。酒類の種類にかかわらずやめておいたほうがよい。節酒を指示された場合は、1日に日本酒なら1合、ビールなら400mL程度、ワインなら200mL程度までにする。

抗酸化物質をとる
赤、黄、緑、紫、黒などの色の濃い野菜類や、鮭、エビなどには酸化を防ぐ抗酸化物質が含まれている。食事ごとに色の濃い野菜を必ず一皿は確保するようにするとよい。

※参考 1)協和キリン 糖尿病サポートネット
     2)厚生労働省 eヘルスネット 栄養・食生活 脂質異常症
    3)テルモ糖尿病ケアサイト

今月のこやし

1.糖尿病の食事指導
①1日当たりの適正なエネルギー量を知る。
②栄養バランスのよい食事をする。
③『糖尿病食事療法のための食品交換表』(『食品交換表』)を用いる。
 尚、栄養摂取量は年により変更されることがあるため、最新の情報を用いる。
④食事療法の注意点
・食事は規則正しく、ゆっくり噛んで腹八分目にする
・食品の種類は、できるだけ多くバランスよく摂る
・脂質と塩分は控えめにする 
・食物繊維を摂る 
・外食をするときは、総エネルギー量が高く、塩分・糖分が多く、野菜・ミネラルが
不足しがちなので注意する

2.脂質異常症の食事指導
①体重を適正にする
②アルコールを制限する
③食事療法の注意点  
・飽和脂肪酸の摂取量、工業的トランス脂肪酸の摂取量を減らす
・コレステロール摂取量を制限する
・多価不飽和脂肪酸を摂取する 
・n-3系多価不飽和脂肪酸を確保する 
・食物繊維を多くとる  
・糖質の摂取量を制限する
・抗酸化物質をとる 

糖尿病が悪化すると糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害などの合併症を引き起こし、脂質異常症になると動脈硬化が起きる原因になるため、処方された薬は飲み忘れなくしっかり飲んで頂くことが重要である。
目標体重、1日当たりの適正な総エネルギー量を把握して相談に応じるとよい。

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