解答1
4
解説1
4はNMDA受容体拮抗薬であるメマンチンの記述です。認知症治療薬は一般的に、軽症患者にはドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンといったコリンエステラーゼ阻害薬から開始し、中等度に入ったころからNMDA受容体拮抗薬であるメマンチンの単独あるいは併用療法に移っていくというのがアルゴリズムに則ったスタンダードな薬物療法1)です(図1)。これら認知症治療薬の投与初期は、副作用の好発時期であることから、コリンエステラーゼ阻害薬の場合は、嘔気、嘔吐、食欲不振などの消化器系副作用、脈拍の低下、心房細動などの不整脈といった循環器系副作用2,3,4)、NMDA受容体拮抗薬の場合は、浮動性めまい、傾眠、頭痛などの中枢神経系副作用5)が出現していないかどうか注意を払う必要があることは一般的に広く知られています。ここで、もう一つ知っておきたい副作用が、本症例のようなコリンエステラーゼ阻害薬、なかでもドネペジルに多いとされる易怒性、攻撃性、興奮などの症状が増す精神神経系副作用です。コリンエステラーゼ阻害薬は主に中核症状を改善する作用を示しますが、周辺症状(BPSD)に対してまれに「興奮系」として作用してしまうことがあります。これは、脳内に増えたアセチルコリンが神経ネットワークを賦活化し、周囲への刺激に対する感受性が高まることが原因6)ではないかと考えられています。

図1 病期別の治療薬剤選択のアルゴリズム
出典:認知症疾患治療ガイドライン2017
解答2
2
解説2
易怒性、攻撃性、興奮などの症状は、認知症の周辺症状(BPSD)の悪化によるものなのか、ドネペジルの服用が影響したものなのかについての判断は非常に難しいところです。しかし、ドネペジルの血中半減期は健常人で約80時間と非常に長く2)、薬剤性である可能性も否定できないことも踏まえると、一旦服薬中断を提案したうえで医師の診察を受けるように指導するのが良いでしょう。
※服薬指導のポイント
患者のご家族や介護者へ認知症治療薬の服用開始後または漸増時期のタイミングにおいて、まれに易怒性、攻撃性、興奮など精神症状の悪化をきたす可能性があることを伝え、患者の日常生活の変化などを注意深く観察し、症状が現れた場合にはすぐに医師の診察を受けるように指導をする。
今月のこやし
ご家族が患者の日常生活の変化などを注意深く観察し、不眠、易怒性、攻撃性、興奮などの症状が現れた際にはすぐに薬剤師へ相談し、迅速に対応することが重要です。服薬指導時には、一般的な副作用と比べて発生する可能性が低い副作用でも、ご家族や介護者に適切に伝える必要があることを改めて感じました。また、ご家族から電話でご相談を受けた際、薬の服用を一時的に中断し、外来受診を促すことが効果的な対応となることもあります。
特に、ドネペジルの血中半減期が健常者では約80時間と非常に長いため、服薬後にはこうした症状が長く続く可能性があります。服薬の中断が早ければ早いほど、副作用の症状消失までの期間を短縮できると考えられます。
当該症例では、メマンチン10mg/日で病状が安定し、患者さんはご家族と安心して在宅で過ごしているということです。
皆様の薬局でも今回のような相談を受けることは珍しくないと思います。是非、「相談記録簿」にご報告ください。そして、その報告が、他の薬剤師にとって「明日へのこやし」になることを願っています。

【参考文献】
1) 日本神経学会/日本神経治療学会/日本精神神経学会/日本認知症学会/日本老年医学会/ 日本老年精神学会:認知症疾患治療ガイドライン2017
2) エーザイ株式会社:アリセプト®,インタビューフォーム(2023年5月改訂,改定第33版)
3) ヤンセンファーマ株式会社:レミニール®,インタビューフォーム(2020年9月改訂,第10版)
4) 小野薬品工業株式会社:リバスタッチ®パッチ,インタビューフォーム(2023年8月改訂,第10版)
5) 第一三共株式会社:メマリー®,インタビューフォーム(2018年6月改訂,第15版)
6) 中村祐:認知症に対する薬物治療の今、そして今後;抗認知症薬の使い分けはどうするのか.臨床精神薬理,21:19-28,2018




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