解答1
3,5
ジスチグミン臭化物は、可逆的コリンエステラーゼ阻害薬であり、重大な副作用として、コリン作動性クリーゼを起こすことがある。コリン作動性クリーゼの初期症状として、下痢、発汗、徐脈、縮瞳、唾液分泌過多などが認められる。
解答2
4
- 食前服用でジスチグミン臭化物の血中濃度が上昇する傾向が認められた報告がある。1)
- 1日5mgである。重症筋無力症の場合は1日5~20mgを1~4回に分割投与する。
- 長期投与でも発現している症例もあるので、十分な注意が必要である。
- 正しい。
解説
本症例は、頻尿治療のために処方薬を服用した高齢者を対象としている。
排尿のメカニズムは下記の通りである。蓄尿時は、膀胱排尿筋が弛緩し、内尿道括約筋は収縮している。これにより、約300〜400mLの尿を蓄える事ができる。排尿時は、膀胱排尿筋が収縮し、内尿道括約筋は弛緩する。本症例は、処方内容から神経因性膀胱による排尿困難と想定され、膀胱排尿筋の収縮力が低下していると考えられる。

(高齢者の排尿・排便障害,日老医誌 2012;49:582-585)
ジスチグミン臭化物錠(ウブレチド錠)は、コリンエステラーゼに可逆的に結合することによってアセチルコリンの分解を抑制し、膀胱排尿筋のムスカリン受容体に作用してその収縮機能を改善する働きがある。本邦では、①手術後及び神経因性膀胱などの低緊張性膀胱による排尿困難のほか、②重症筋無力症にも適応症をもつ薬剤である。本薬剤の服用に際し重大な副作用であるコリン作動性クリーゼを引き起こす可能性がある。その初期症状、対処方法については患者だけではなくご家族等にも十分理解していただく必要がある。コリン作動性クリーゼとは、「呼吸困難を伴うアセチルコリン過剰症状の急激な悪化とされ、人工呼吸を要する状態」を言う。初期症状は下痢、腹痛などの消化器症状が多く報告されているが、発汗、徐脈、縮瞳、唾液分泌過多なども認められることがある。2)
発現時期は、投与開始2週間以内が最も多く38%と高率であるが、1年以上の長期服用中に発症した例も決して少なくない。年齢的には60歳以上の発症例が93%を占めている。高齢者では、肝・腎機能が低下していることが多く、体重が少ない傾向があるなど副作用が発現しやすいため、慎重に投与する必要がある。また、排尿困難において、1日10mg以上投与例で、死亡に至る重篤な副作用を発現したことから、それを防止するため、2010年3月より用量は「成人1日5㎎を経口投与する」と添付文書が改訂された。
食事の影響について、
ウブレチド錠の添付文書よると、「イヌにジスチグミン臭化物(0.02%w/v水溶液)として1.0mg/kgを、絶食時又は給餌後に単回経口投与し、血漿中濃度を測定した際、絶食群は給餌群に比し、Cmaxが約9.4倍、AUC0-24が約6.6倍高値であった。」とされている。3)ヒトでの報告は、症例数は少ないが、食前服用群と食後服用群で血中濃度を比較した報告がある。その結果、食前服用群でウブレチドの血中濃度が上昇する傾向が認められた。1) 副作用防止のためには、服用時点を自己判断で変更しないこと、シックデイなどで水分や食事が十分摂取できない場合も注意が必要であると患者に伝える必要がある。
コリン作動性クリーゼを疑われる初期症状が認める場合には、直ちに服薬を中止し、一般入院治療で拮抗剤(アトロピン硫酸塩水和物)の投与、腸管除染を行う。さらに初期症状の遷延・悪化が認められる場合や縮瞳、線維束攣縮、意識障害、呼吸不全、痙攣などの症状が一つでも認められる場合は酸素投与、気管挿管、人工呼吸器管理等の専門的な集中治療が必要となる。
Aさんについてはコリン作動性クリーゼが発現した恐れがあるため、直ちに服薬を中止し受診するよう家族に指導し、処方医に状況を電話で報告。当該薬が中止になった。高齢であること、食後の指示を自己判断で空腹時の就寝前に服用してしまったことが、副作用発現のリスクを高めてしまったと考えられる。
今月のこやし

ジスチグミン臭化物錠(ウブレチド錠)の警告に以下の記述がある。
1.本剤の投与により意識障害を伴う重篤なコリン作動性クリーゼを発現し、致命的な転帰をたどる例が報告されているので、投与に際しては下記の点に注意し、医師の厳重な監督下、患者の状態を十分観察すること。
1.1 本剤投与中にコリン作動性クリーゼの徴候(初期症状:悪心・嘔吐、腹痛、下痢、唾液分泌過多、気道分泌過多、発汗、徐脈、縮瞳、呼吸困難等、臨床検査:血清コリンエステラーゼ低下)が認められた場合には、直ちに投与を中止すること。3)
本症例において、患者は同居の家族からの連絡で重症化を防ぐことができたが、独居の場合にはコリン作動性クリーゼの初期症状と気づかずに服用を継続していた可能性がある。副作用発現のリスクを高める背景因子を持つ患者の場合は特に、薬を渡した後の薬剤師による「服薬フォローアップ」が重要である。4)
また、薬剤師は「患者の訴え」のみならず、「患者の様子」からも患者に関する情報を得られる場所で業務を行っており、それらを活かした薬学的介入は、薬剤師の重要な職能のひとつである。
【参考資料】
- 巴 ひかる 日本排尿機能学会誌23(1)「排尿筋低活動症例に対するジスチグミンの有用性と至適投与法の検討」2012
- 鳥居薬品 ウブレチド錠5mgご使用時の注意事項2023年作成
- ウブレチド錠 添付文書・インタビューフォーム
- 薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き (第 1.2 版)




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