解答
①、④、⑤
解説
緑内障は3種類に大別できる。①遺伝や生活習慣、眼圧や血流、近視の強さなど様々な要因で発症すると言われる「原発緑内障」、②他の病気に続いて発症する「続発緑内障」、③目の先天的な異常によって発症する「小児緑内障(発達緑内障)」がある。
原発緑内障と続発緑内障をさらに細かく分類すると、「開放隅角緑内障」と「閉塞隅角緑内障」の2つのタイプがある。1)
目の中には房水と呼ばれる水の流れがある。房水は毛様体で産生され、水晶体の前面を通り、瞳孔から前房に入る。前房水は「隅角」と呼ばれる角膜の後面と虹彩の前面で形成される場所から眼外に流れ出る。房水の産生と排出の量のバランスをとることで、一定の目の固さ、眼圧が保持される。例えば、閉塞隅角では隅角が狭くなり房水の流れが滞る。毛様体での房水の産生は変わらないので、眼圧が上昇し目が固くなる。この状態は急性緑内障発作と呼ばれ、失明の危険がある。2)
設問① 〇
本邦では緑内障は失明原因の眼疾患の1位である。40歳以上の約5%が緑内障を罹病していると考えられている。緑内障は病型によって分類されるが各々の罹病率は開放隅角緑内障(3.9%)、閉塞隅角緑内障(0.6%)、続発緑内障(0.5%)、発達緑内障(0.0%)となる。3)アメリカなどの欧米諸国では、加齢黄斑変性が失明原因の1位となっている。
設問② ×
正常眼圧緑内障は日本人に多く見られ、眼圧が正常範囲内(10-20mmHg)でも視神経の脆弱性が原因で発症する緑内障である。
設問③ ×
チモロールマレイン酸塩点眼液は、毛様体のβ受容体を遮断して房水産生を抑制する。
緑内障治療薬の目薬は作用機序から大きく下記の2つに分類される。
・房水産生抑制
・房水流出促進
| 作用機序 | 薬剤 |
| 房水産生抑制 | 炭酸脱水素酵素阻害薬 交感神経β受容体遮断薬 交感神経α2受容体作動薬 |
| 房水流出促進 | 副交感神経作動薬 Rhoキナーゼ阻害薬(ROCK阻害) プロスタノイド受容体作動薬 交感神経α2受容体作動薬 交感神経α1受容体遮断薬 |
【 緑内障に使用される点眼薬一覧 】
| 機序 | 分類 | 一般名 |
| 房水産生抑制 | β遮断薬 | チモロールマレイン酸塩 カルテオロール塩酸塩 |
| 房水産生抑制 | β1遮断薬 | ベタキソロール塩酸塩 |
| 房水産生抑制 | 炭酸脱水素酵素阻害薬 | ドルゾラミド塩酸塩 ブリンゾラミド |
| 房水産生抑制 房水流出促進 | α1、β遮断薬 | レボブノロール塩酸塩 ニプラジロール |
| 房水産生抑制 房水流出促進 | α2作動薬 | ブリモニジン酒石酸塩 |
| 房水流出促進 | イオンチャンネル開口薬 | イソプロピルウノプロストン |
| 房水流出促進 | FP受容体作動薬 | ラタノプロスト トラボプロスト タフルプロスト ビマトプロスト |
| 房水流出促進 | EP2受容体作動薬 | オミデネパグ イソプロピル |
| 房水流出促進 | 副交感神経作動薬 | ピロカルピン塩酸塩 ジスチグミン臭化物 |
| 房水流出促進 | α1遮断薬 | ブナゾシン塩酸塩 |
| 房水流出促進 | ROCK阻害薬 | リパスジル塩酸塩水和物 |
〇合剤
FP受容体作動薬+β遮断薬
| 分類 | 一般名 | 製品名 |
| FP受容体作動薬 +β遮断薬 | ラタノプロスト/ チモロールマレイン酸塩 | ザラカム配合点眼液 |
| 同上 | ラタノプロスト/ カルテオロール塩酸塩 | ミケルナ配合点眼液 |
| 同上 | トラボプロスト/ チモロールマレイン酸塩 | デュオトラバ配合点眼液 |
| 同上 | タフルプロスト/ チモロールマレイン酸塩 | タプコム配合点眼液 タプコムミニ配合点眼液 |
| 炭酸脱水素酵素阻害薬 +β遮断薬 | ドルゾラミド塩酸塩/ チモロールマレイン酸塩 | コソプト配合点眼液 コソプトミニ配合点眼液 |
| 同上 | ブリンゾラミド/ チモロールマレイン酸塩 | アゾルガ配合懸濁性点眼液 |
| α2作動薬 +β遮断薬 | ブリモニジン酒石酸塩/ チモロールマレイン酸塩 | アイベータ配合点眼液 |
| α2作動薬 +炭酸脱水酵素阻害薬 | ブリモニジン酒石酸塩/ ブリンゾラミド | アイラミド配合懸濁性点眼液 |
| α2作動薬 +ROCK阻害薬 | ブリモニジン酒石酸塩/ リパスジル塩酸塩水和物 | グラアルファ配合点眼液 |
設問④ 〇
チモロールマレイン酸塩点眼液は気管支喘息、又はその既往歴のある患者、気管支痙攣、重篤な慢性閉塞性肺疾患のある患者は、β-受容体遮断による気管支平滑筋収縮作用により、喘息発作の誘発・増悪がみられるおそれがあるため禁忌になっており4)眼科医に確認を取る必要がある。
設問⑤ 〇
今回の症例では眼科医のコメントから当該患者は閉塞隅角緑内障である可能性が高い。また、お薬手帳からベシケア(抗コリン薬)を定期服用しているとの情報を入手した。
ベシケアは、膀胱のムスカリン受容体におけるアセチルコリンの働きを阻害する作用(抗コリン作用)により、膀胱の過剰な収縮を抑え、過活動膀胱などによる尿意切迫感や頻尿などを改善する薬剤である。抗コリン薬に関しては、2019年6月に添付文書改定があり、閉塞隅角緑内障では引き続き禁忌となっているが開放隅角緑内障には慎重投与となった。5)そのために、処方医への確認が必要となる。
抗コリン薬や交感神経刺激作用を有する薬剤は、散瞳を起こす可能性があるため前房の浅い閉塞隅角緑内障では、散瞳によってさらに隅角が閉塞されやすい状態となり、急激な眼圧上昇(40~80mmHg)をもたらす急性緑内障発作を起こす可能性がある。一方、開放隅角緑内障の患者や急性発作を起こさないよう外科的処置(レーザー虹彩切開術・水晶体摘出術)を受けている閉塞隅角緑内障患者では抗コリン薬や交感神経刺激作用を有する薬剤の投与は問題ないと考えられている。また、抗コリン薬以外に、交感神経刺激薬、副腎皮質ステロイド、血管拡張薬、強心薬は緑内障患者への投与に注意が必要な薬剤として挙げられる。6)
今月のこやし
緑内障患者さんへの日常生活のポイント。
・過剰な興奮を避け、長時間うつむいて仕事をしないこと。
・首回りが楽な服装にしょう。
・大量の水を一度に飲まないこと。
・カフェインを含むコーヒーやお茶の大量摂取は慎むこと。
緑内障に禁忌の薬剤に気を付ける必要がある方は、緑内障患者の約12%に相当する。緑内障には複数の病態がある。通常は閉塞隅角緑内障と診断がついている方には眼科医から禁忌薬剤の注意がなされるはずだが、自分がどのタイプの緑内障であるか、使用してはいけない薬剤の種類もしっかりと把握しておくことが重要である。
日本眼科医会は、日本緑内障学会の監修のもとに、眼科医・患者・かかりつけ医・薬剤師を結ぶツールとして「緑内障連絡カード」を開発した。

「緑内障連絡カード」は、「緑内障の病型」について「開放隅角」「閉塞隅角(狭隅角を含む)」の二択、「緑内障禁忌薬の使用について」も「使用制限なし」「使用を控える」の二択とシンプルにしている。また、治療の有無で使用の可否が変わるため、「虹彩切開術または白内障手術」について「済」「未」の二択にしている。2)
このツールは、緑内障の患者さんを中心にかかりつけ医・薬剤師・眼科医の連携に役立ち、強いては患者さんの安全・安心に寄与するものであり積極的に活用されたい。

参考
3)日本緑内障学会「日本緑内障学会多治見緑内障疫学調査(通称:多治見スタディ)」報告
4)チモプトール点眼液0.5% インタビューフォーム
5)令和元年5月31日に開催された令和元年度第3回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安 全対策部会安全対策調査会)抗コリン薬の禁忌「緑内障」等の見直しについて




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